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俳優の古谷一行氏がお亡くなりになりました。享年78歳。ご冥福をお祈りいたします。
私は横溝正史ブームの中でポジションを得たTV版金田一耕助、異色の劇場版『金田一耕助の冒険』と火曜サスペンス劇場の松本清張作品の数々が心に残ります。また、横溝正史シリーズと前後して、70年代後半から80年代前半にレコードを多数リリース。私は、当時FMでよく聴いていました。好きだった曲は「あきらめの街」でした。
今回は火曜サスペンス劇場に出演した彼の清張作品(Wikiによると13作あるようです)の中から、私の好きな2作を綴ります。
やさしい地方(1988年11月29日放映)
松本清張の短編小説が題材、『失踪の果て』に収録。私の地元、長野県が登場する作品でその地が主人公にとって"やさしい地方"となる。

■あらすじ(原作ベース)
沼地恭介(古谷一行)は弁護士事務所に勤務していたが、精力的な容貌を持ち、女性に接するあらゆる機会がそのまま彼女を手に入れる道に通じる男であった。夫との揉め事で事務所に来た萩山芳子(沢田亜矢子)とも、すぐに交渉を持ったが、ある時、芳子を連れて長野県・飯田周辺に宿泊した際、土生とよ子(佐々木すみ江)という変わった姓の助産婦が話題になる。芳子とはその後あっさり別れた沼地だったが、それから3年を経て、達者な弁舌を武器に、国会議員にのし上がることに成功した。今度は魅惑的な人妻の向田規美子(沖直未)、続いて未亡人で財産家の横内タツ子(加藤治子)を手に入れる。沼地より11歳年上の横内タツ子は、太っちょで鼻が低い容貌だったが、金づるとしてありがたい女だった。しかしそんな時、向田規美子が沼地に妊娠を告げる。このことが横内タツ子に知られたら、自分は宝の山を喪失する…。沼地は邪魔になった女の殺人計画を練る。
古谷一行がギラギラと金と女と地位を追い求める野心溢れる男を好演。弁護士から国会議員にのし上がるものの、"女"をきっかけに転落していくさまが良く描かれている1本である。長野県・飯田周辺をあるとき訪れた沼地恭介(古谷一行)と萩山芳子(沢田亜矢子)。朝もやの中、妊産婦を預かる助産婦・土生(はぶ)とよ子の家の前に立った男と女の脳裏にそのとき刻まれた"やさしい地方"の記憶が、後にそれぞれの人生の中で甦り、再びその地を訪れることによって、不幸な女の人生が浮かび上がり、男の恐ろしい犯罪が暴かれることになる。後腐れなく別れた男女が過去の旅の記憶によって、のちに同じ地を訪れる展開が絶妙。沼地恭介は妊娠させた人妻・向田規美子(沖直未)をコワモテの旦那から隠すために助産婦の家を思い出し、萩山芳子は愛人の男との間にできた子供を人知れず産むためにこの地を思い出すのだ。女にとっては既に過去に終わった関係で沼地は関わりたくない男だったのだが、向田規美子と彼女が生んだ赤ちゃんを沼地が殺したことを確信、自分の身の上と同じく人知れず出産して男を待ちわびて殺されてしまった女の不幸を思うと沼地を許すことができずに、密かに警察に告発をする。完全犯罪を確信していた沼地は逮捕されるが、誰が自分を告発したのかわからない。議員時代の秘書に調べさせ、助産婦の家に滞在した妊婦のリストを手に入れ、その中に萩山芳子の名前を見つけて愕然とするのであった。
2時間サスペンスものでは、古谷一行は刑事などの定番役もあれば、本作のように悪役を演じることもあり、なかなか楽しめました。悪役の作品はだいたい人生転落系が多かった印象です。地元出身の俳優、小松方正が所轄の刑事役で出演しています。
渡された場面(1987年7月7日と7月14日放映)
松本清張の長編推理小説。火曜サスペンス劇場では2週に渡ってオンエアされています。
■原作は新潮社から発売中

■あらすじ(原作ベース)
玄界灘に面した漁港の町の大旅館・千鳥旅館に、作家の小寺康司が滞在していた。係女中の真野信子は、小寺の不在中に、好奇心にひかれて未完の原稿を読み、書き写した。恋人の下坂一夫の役に立てばとの思いからであった。下坂は小寺の文章を陳腐・古臭いとして、まったく興味を示さないように見えたが……。
四国の県警捜査一課長・香春銀作は、好きで時々文芸雑誌を拾い読みしていたが、ある時、下坂一夫という人物の作品が同人雑誌評で取り上げられているのを目にする。読み終えて、起訴になっている未亡人・山根スエ子殺害事件の実況見分調書の一部と、下坂の文章の一部がそっくりであるのに気づく。香春は下坂一夫が作品創作のために現場付近に行ったことがあると考え、懸案の山根スエ子殺害事件解決の手がかりになればと、下坂に確認をとろうとするが……。
火曜サスペンス劇場では、山根スエ子殺害事件の舞台を秩父市に設定。古谷一行は埼玉県警の刑事・越智達雄の役(原作の香春銀作)を演じている。この物語の面白いところは九州と秩父で起こったまったく関係のない殺人事件がひとつにつながるというところです。執筆活動で九州の旅館に滞在していた著名な作家(長門裕之)の世話をしていた女中(坂口良子)が作家の未完の作品を目にして、それを同人誌活動で目が出なかった恋人、下坂一夫(京本政樹)のためを思い、書き写して渡してしまう。作家は後に急死を遂げてしまい、その作品はボツになったまま日の目を見ることが無かった。下坂一夫は密かにその作品を自分のものとして取り入れて発表、文壇で注目を浴びて名声を得る。同じころ、秩父で起こった殺人事件の現場付近の景色や雰囲気が発表された同人誌の小説の中にあることを文芸好きで自分も趣味で執筆活動をしている地元の刑事(古谷一行)が読んだことで、事件の端緒を掴んでいく。秩父で殺人事件が起こった頃に、たまたま作家(長門裕之)がこの地を訪れていてこの地の風情を小説の中にしたためていたのである。片や九州では作家の作品を盗用して名声を得た男が、自分の野心と保身のために殺人に手を染めていく。九州と秩父の事件(もちろん犯人は別々)がひとつの線になるプロセスが秀逸。ドラマは前後編の2回に分けて丁寧に描いているのが素晴らしい。古谷一行の飄々とした辣腕刑事ぶりと奥さん役の結城しのぶの良妻賢母ぶりが良い1本です。坂口良子が不幸な女を好演、長門裕之と共演した松本清張作品『坂道の家』(1983年)が印象に残ります。余談ですが、紹介した2作の端役で「どこかで見たことがある!?」という女優さんが出ています。沢柳廸子さんという方で、「スクール・ウォーズ」で"川浜一のワル"大木大介の母親役を演じた方です。

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