
BS PREMIUMでオンエア。本作は、映画チャンネルなどでたまにオンエアがあるので、時折思い返して観る作品。『砂の器』と並び、日本映画の傑作と称されている作品です。公開は昭和40年、私が生まれた年ですので劇場では未見、原作も未読。『砂の器』と同じで、私は物心がついてから1978年にフジテレビで放映されたテレビシリーズで本作を知りました。
東映W106方式
本作は東映作品。オープニングの東映ロゴが出るところで「東映W106方式」と画面下部に表記されている。あまりなじみのない方式だが、Wikiによると下記のように解説されている。ロケは東京、下北半島、北海道、舞鶴の各地で行われた。映画の撮影にあたり内田は、現代の日本人全体がおかれている"飢餓"の状況を描くためには、従来の方法でダメだと思い、流麗な画面ではなく、苦渋に充ちた画面を求め、16ミリで撮影されたモノクロフィルムを35ミリにブロー・アップさせた「W106方式」を開発した。この方式によりザラザラとした質感や、現像処理で動く銅版画のような画調をもたらす「ソラリゼーション」など、当時の小型映画によく見られた実験的手法を積極的に導入して、映像はそれまでの日本映画のウェット感とは一線を画した渇いた硬質の印象をもたらした。あの独特なフィルムのザラザラ感がこの方式によるものだということがわかりました。本作は、名作と謳われながらHD放送はあってもBlu-ray化はされていない。当初は東映ビデオ社の中での位置付け、極論言えば「扱いの低い」作品なのではないかと思っていたが、レストアしてしまうことでこの独特の作品感が失われてしまうことに配慮しているのではないかと一考するようになりました。
作品について
監督:内田吐夢
原作:水上勉
脚本:鈴木尚之
出演:三國連太郎/左幸子/伴淳三郎/高倉健
ストーリー:昭和22年9月、青函連絡船が台風で転覆、多くの犠牲者が出た。同じ日、北海道岩内町の質屋一家が殺害、放火され、全町を焼きつくす大火事となる。連絡船の死体は乗客名簿より多く、函館警察の刑事・弓坂は身元不明の死体が岩内の殺人犯3人組のうち2人だと確信、残る1人を追跡するが…。実話を題材にした水上勉の小説を、巨匠・内田吐夢監督が斬新な映像美で映画化。三國連太郎、伴淳三郎、左幸子が共演する傑作ミステリー。(BS PREMIUMより)北海道岩内における強盗放火殺人により発生した大火と台風による青函連絡船転覆の大惨事が重なったことで、犯人一味がこの機に紛れて逃亡〜仲間割れの後に主人公、犬飼多吉一人が下北にたどり着く。男は逃亡の過程で唯一交わした不幸な娼婦、杉戸八重に大金を残し、それを恩義に感じた娼婦は刑事に何も語らず捜査は迷宮入りに…。10年後、主人公が実業家となり、篤志家として別の人生を歩んでいることを偶然新聞で知った女は男を訪れる。このあたりは、『砂の器』の中で、訪れた伊勢の映画館に飾られていた写真で主人公の存在を知り、後に殺害された被害者のくだりがオーバーラップする。人間は、自己の地位を守りたいがためとはいえ、なぜ恩義ある人をいとも簡単に殺してしまうのだろうか。この切なさは、オープニングのナレーションと物語の後半、この事件の未解決の責任を取らされて刑事を辞めるはめになってしまった元刑事・弓坂の言葉に集約されているのではないかと思う。
「飢餓海峡…それは日本のどこにでも見られる海峡である。その底流に我々は貧しい善意に満ちた人間のドロドロとした愛と憎しみに執念を見ることができる。」(オープニングのナレーション)「犬養は偶然のことから大金を掴み、八重も同様、同じケースの中に一方は加害者となり一方は被害者となっています。貧乏人の金に対する恐ろしいほどの執念と犯行、これは極貧の味を知らない者にはわからないのであります、これは。」(元刑事・弓坂の言葉)
55年前の三國連太郎は若くて、息子の佐藤浩市によく似ているなと思います。捜査に執念を燃やす老刑事を伴淳三郎が好演、のちの『女王蜂』の巡査役に引き継がれているのかどうかは観る人次第。10年後に発生した事件を追う、冷静で正義感の強い刑事に若き高倉健。論理的思考の持ち主でサポートを惜しまぬ上司に藤田進。こういう上司だと事件解決は一気に進む。娼婦役の左幸子も魅力的。オンエアは3時間の完全版でした。
原作とDVDなど
原作は電子書籍になっているようです。ソフトはDVDでブルーレイ発売は無し、ただamazon prime videoはHD画質となっています。■DVD(SD/標準画質)
■amazon prime video(HD/高画質)
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