愚行録 映画チラシ
読んでから見るか 見てから読むか
先週末、帰省のかたわら新幹線の中で何か本でも読もうと思って買ったのが『愚行録』。
ちょうど先週の土曜日から映画が公開されているし、そこそこ話題にもなっている。
邦画のミステリーは、長編でよくできた深みのある作品ほど映画化が難しい。
なので映画化されるときは、先に原作を読むか、映画を観てから原作で復習するか・・・。これはもっぱら映画の当たりはずれに左右される要素が多い。映画の失敗を原作の素晴らしさで結果的にお口直しするケースも多々あるのが現実。全盛期の角川映画のメディアミックスのダイナニズムに代表された「読んでから見るか 見てから読むか」のアプローチは、送り出す側の自信が無ければ中々言えないコピーであるが、最近はその気概を邦画から感じる機会は少ない。なので映画⇒原作の方が、原作⇒映画より落胆するリスクは少ないように思える。
私は、かつての角川映画は小説からも映画からも双方向で楽しんだ口だが、その後の邦画ミステリーは、"原作レイプ"ではないが、しっかり映画化できた作品は自身の鑑賞体験では少ない。残念だった作品は数知れず。特に個人的に好きな高村薫の作品の映画化は失敗例が多い。『マークスの山』『レディ・ジョーカー』など。『砂の器』のように映画用に脚色された設定が(主人公親子のロードムービー的な視点を抒情的に盛り込んだ作風)、原作の設定(主人公は身勝手な殺人犯)より我々になじんでいるのは、レアなケースなのでしょう。
さて『愚行録』に興味を持ったのは、宮部みゆきの『理由』が好きだからかもしれません。どちらの作品も"一家惨殺事件"をジャーナリストの視点から取材形式で掘り下げていき、色んな登場人物の話を聞きながら、人間関係やその背景を浮き彫りにしていくという設定です。『理由』の方が登場人物は多いですが、これを鬼才大林宣彦監督が丹念に作りこんで2004年に映像化しました。この作品はとても完成度が高いです。
今回の『愚行録』は、『理由』と同じく原作から入りました。まだ映画は未見ですが、原作にかなり忠実に作られているということなので期待はできそうです。
『愚行録』は"イヤミス"
原作は、貫井徳郎氏の直木賞候補作にも選出された小説。巷では、"イヤミス"と呼ばれていることを初めて知りました。「嫌な気持ちになるミステリー」だそうです。後味の悪い映画・・・『セブン』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』とかそんなイメージでしょうか?!
ネットを検索すると小説のネタバレ、映画のネタバレなど多く上がっているので、ここではあまり詳細に書くつもりはありません。
エリートサラリーマンの夫、美人聡明な妻、可愛い2人の子供。まさに"絵に描いたような幸せな一家"が惨殺される事件が発生、犯人が捕まらないまま1年が経過。週刊誌記者の主人公は、被害者夫妻と関わりのあった人々にインタビューをしながら事件の真相に迫っていく。主人公は、そこで、人によって語られる被害者夫妻の人物像がまるで異なっていることに気づいていきます。"実像"と"虚像"。犯人の動機は?被害者はなぜ殺されなければならなかったのか?
小説は、冒頭で「3歳女児を衰弱死させた疑いで田中光子容疑者を逮捕」した新聞記事から始まる。その後は、主人公の取材対象者へのインタビューと"ある女性"の彼女の"兄"に対するモノローグを交互に挟みながらストーリーは進んでいきます。
『愚行録』の人物相関図
愚行録2
*登場人物キャストの写真は、映画版『愚行録』ホームページより引用
横溝正史の作品を多く読んでいたので、複雑な人物関係を頭の中で整理するために、よく相関図を書きながら読む癖があります。今回は暇に任せてざっくりと作ってみました。すいません・・・細かくて読めないと思います。詳しい人物の背景が描かれているわけではない(主人公の祖父母が父方なのか母方なのかなど)ので、正直、正確ではありません。あくまでイメージです。
ここで描かれている裏に家族の生い立ち、学歴コンプレックス、学内ヒエラルキー、学内派閥、大学時代から社会人になってからの不行跡と思われるような事件が潜んでいます。
インタビューの合間に挟まれる"ある女性"の彼女の"兄"に対するモノローグ。そのキーワードは"秘密"です。
原作と映画の人物がマッチングしているので、かなり忠実に作られていると思われます。
『愚行録』を読み終わって
一気に読み込みました。面白かったです。『理由』とはまたテイストが一味違い、"イヤミス"の個性が出ていたと思います。個人的には、結末の云々は読んだ方の評価に任せるとして、学歴コンプレックスやエリート意識のリアリティはちゃんと抉った描写で良かったと思います。慶應の内部組の話とか。私とは世界が違うはなしですが、ちょっとそちら方面の方と一時期姻戚関係になったことがあったので、昔の経験を思い出しました。
『理由』は、その時代背景(バブル崩壊など)がもたらした悲劇だったのに対し、『愚行録』は、"人間の深き業"がもたらした悲劇だったように思います。人は皆、一様に愚かなことをしながら生きてきている・・・ということでしょうか。近々、映画で復習してみようと思います。『理由』も見直したくなりました。


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